未知のウイルスが世界中を揺るがした混乱から数年が経過した。社会は平穏を取り戻したように見える。しかし、公衆衛生学の第一線で分析を続ける専門家たちの見立ては決して楽観的ではない。感染症の脅威は消し去られたわけではなく、むしろ新たな変異株の出現や新興感染症のリスクが静かに潜んでいるからだ。
現在、感染症疫学の領域で求められているのは、緊急事態への「一時的な応急処置」から「持続可能な監視・予防体制」へのシフトである。一時の騒乱期には、急ごしらえの法改正や突発的な予算投入で急場をしのぐことができた。だが、長期的な視点に立ったとき、疲弊した現場をどう立て直すかという課題が重くのしかかる。