この秀逸な比喩は一体どこから生まれたのでしょうか。「pot calling the kettle black」の由来を辿ると、17世紀初頭のスペイン文学、ミゲル・デ・セルバンテスが著した世界的傑作『ドン・キホーテ』(Don Quixote)に突き当たります。
1620年にトマス・シェルトンが翻訳した英語版『ドン・キホーテ』の中に、次のような台詞が登場します。
"You are like what is said that the frying-pan said to the kettle, 'Avant, black-brows!'"(お前は、フライパンがやかんに『失せろ、黒まゆ毛め!』と言ったという話のようだ)
当時はフライパン(frying-pan)とやかん(kettle)の組み合わせでしたが、時代を経てより家庭で身近な「鍋(pot)」に変化し、17世紀末から18世紀にかけて現在のかたちとして定着しました。
かつての西洋の家庭では、暖炉の火に直接吊るされるキャストアイアン(鋳鉄)の鍋ややかんは、使えば使うほど煤で黒光りしていました。中には「やかんは金属製で磨けば鏡のように反射するため、鍋はやかんの表面に映った自分自身の黒い姿を見て『お前は黒い』と罵っているのだ」というさらに深い解釈も存在します。自分自身の醜さを他人に投影して攻撃する人間の心理を突いた、非常に示唆に富むことわざです。