世間が最も関心を寄せたのは、「佐村河内守は本当に聞こえているのか?」という一点だった。新垣氏の会見直後、メディアは一斉に彼を「偽りの障害者」「ペテン師」と痛烈に批判。記者会見に臨んだ佐村河内氏は、短く刈り込んだ髪とスーツ姿で登場し、自身の聴覚障害の程度について説明を試みた。
専門医による精密な検査結果によれば、彼は医学的な「全ろう(重度難聴)」ではなく、重度の感音性難聴であったとされる。手話通訳を介さずに会話ができる時間帯や体調の波が存在し、日常の会話を一部聞き取ることが可能だった。つまり、「全く音が聞こえない」というメディア上のストーリーは過剰に演出されていたものの、完璧な健常者としてすべてを偽っていたわけでもないという、きわめて曖昧でグレーな実態が浮かび上がった。
この騒動の舞台裏を決定的に変えたのが、映画監督の森達也氏によるドキュメンタリー映画『FAKE』だ。カメラは、メディアの猛バッシングを受けて自宅に引きこもる佐村河内夫妻の日常を密着取材した。作品内で示されたのは、単なる善悪の二元論では切れない複雑な人間像だった。補聴器を外し、音のない世界で暮らす時間と、わずかな振動や残存聴覚を頼りに音を感じ取る瞬間。そこには、ワイドショーが作り上げた「完璧なペテン師」という像とは微妙に異なる、生々しい個人の苦悩が記録されていた。