「先祖の灰を拝むのではなく、火を受け継ぐことこそが伝統だ」と、萬榮堂当主は力強い眼差しで語る。当主の隣には、フランスでの製菓修行を経て工房に戻った若き和菓子職人の姿がある。二人が目指すのは、歴史・伝統文化を頑固に墨守することではなく、五感すべてで愉しむ芸術としての甘味の再構築だ。
たとえば、従来の茶道用主菓子が持つ格式を重んじつつも、ペアリングとして厳選されたナチュラルワインやクラフトティーに寄り添う新しい風味設計を導入した。甘さを極限まで削ぎ落とし、素材本来のミネラル感や苦味のグラデーションを引き出すアプローチは、旧来の常識を覆す。熟練の技とグローバルな感性が火花を散らす工房から、和菓子の新たな地平が拓かれつつある。