メアリーが懸念していたのは、単に放送局が変わることだけではなかった。広告が入る商業放送に移ることで、素人ベーカーたちが純粋に製菓技術を競い合う穏やかな雰囲気が損なわれるのではないかという危惧もあったとされる。
『ブリティッシュ ベイクオフ』の魅力は、参加者同士がライバルでありながら助け合う「優しさ」にあった。視聴者が愛したのは過剰な演出やドキュメンタリー特有のドロドロした愛憎劇ではなく、テントの中で繰り広げられる誠実な菓子作りだったのだ。メアリーの離脱は、その「番組の魂」が失われることへの無言の抵抗でもあった。