キックボクシングでの栄光をすべて捨て、ボクシングへの転向を発表したとき、世間は驚きに包まれた。だが、彼の頭の中には常にあの日の残像があったはずだ。キックのルールでは敵なし。しかし、純粋なパンチの技術だけで世界を制するボクシングのリングで、自分はどこまで通用するのか。その挑戦心は、間違いなくあのエキシビションから芽生えたものだった。
「あのままキックを続けていれば、安泰だったかもしれない」。そう語る関係者も少なくない。だが、那須川は茨の道を選んだ。己の拳だけで世界を黙らせる。その決意の裏には、敗北の味を知る者だけが持つ、強烈な飢えがあった。