実在のモデルたちの中で、もっとも世間の注目を浴び、同時に数奇な生涯を歩んだのが「はまじ」こと浜崎憲孝氏です。中学校卒業後、浜崎氏は芸人を志して上京。吉本興業の養成所などで漫才師を目指した時期もありましたが、夢破れて帰郷。その後はタクシー運転手やトラック運転手など職を転々とする日々を送っていました。
転機が訪れたのは2002年でした。自身の子ども時代や、さくらももこさんとの思い出をユーモラスに綴った自伝『僕、はまじ』(彩図社)を上梓。これが発行部数10万部を超えるベストセラーとなり、各種テレビ番組やラジオに「本物のはまじ」として出演するようになります。サイン会を開けば長蛇の列ができ、続編の執筆など、一躍文化人タレントのような脚光を浴びました。
しかし、ブームの熱気は長くは続きませんでした。その後、静岡市内でカフェ「はまじの店」をオープンさせるなど新たな挑戦を続けたものの経営難に陥り閉店。後年は体調を崩し、生活保護を受給しながら市営住宅でひっそりと暮らす生活へと移行していきました。
全国に衝撃が走ったのは2023年8月のことでした。静岡市内の自宅アパートで、浜崎氏が遺体となって発見されたと大手紙や週刊誌が一斉に報じたのです。警察の調査や近隣住民の証言によると、発見されたのは2023年5月中旬、異臭に気付いた住人の通報によるものでした。死因は病死と推定され、享年57歳での孤独死という悲劇的な結末でした。教室で誰よりも笑いを取っていた少年のあまりにも孤独な晩年は、昭和・平成のノスタルジーに浸る多くの読者に強烈な切なさを残しました。