『24時間テレビ』の会場といえば、1980年の第3回から2018年の第41回に至るまで、ほぼ一貫して日本武道館がその象徴を務めてきました。しかし、2019年の第42回放送において、翌年に控えた東京五輪・パラリンピックに伴う武道館の大規模改修工事を契機に、会場が両国国技館へと変更されました。工事が完了した現在も武道館へ戻らない背景には、単なるスケジュールの都合を超えた制作・警備・安全管理上の構造的理由が存在します。
日本テレビ関係者の証言や現場の制作動線から浮き彫りになった決定打は、主に以下の5点に集約されます。
第1に、フロア構造とステージ設営の自由度です。日本武道館はすり鉢状の固定席に囲まれた八角形の建築であり、アリーナ面への大型重機や中継機材の搬入経路に強い制約を受けます。対して両国国技館は、大相撲の本場所で使用される「枡席(ますせき)」を床面ごと撤去してフラットな床面に転換できる可動機構を備えています。これにより、複雑なLED巨大スクリーン、オーケストラピット、チャリティーアーティストの演奏スペースなどを立体的に配置することが可能になりました。
第2に、チャリティーマラソンのゴール動線と警備体制です。武道館は北の丸公園という広大な敷地内に位置し、外部からのアプローチには坂道や長いスロープが存在します。ランナーが到着する日曜日の夜、沿道や敷地内に押し寄せる群衆の雑踏警備は限界に達していました。一方、両国国技館は敷地外周が堅牢なフェンスとゲートで囲まれており、関係車両の搬入口から館内アリーナへと直結する安全かつ遮蔽された導線を構築できます。過酷な走行を終えたランナーを一般の混乱から守り、安全に保護する観点で圧倒的に優位に立ちます。
第3に、酷暑対策と空調機能の刷新です。8月下旬の東京は夜間でも30度近い熱帯夜が珍しくありません。国技館は近代的な集中空調設備が完備されており、観客席のみならず、長時間の生放送に耐えるタレントやスタッフ、ボランティアの熱中症リスクを大幅に低減できます。
第4に、夏期スケジュール確保の安定性です。武道館は音楽アーティストの全国ツアーや武道大会、大学行事などで年間を通じて激しい争奪戦が繰り広げられます。これに対し国技館は、大相撲の本場所(1月・5月・9月)の合間にあたる8月下旬のスケジュールが比較的押さえやすく、設営・撤収に複数日を要する大型生放送にとって極めて使い勝手が良いという実情があります。
第5に、公共交通機関へのアクセスと分散性です。JR総武線の両国駅西口から徒歩約2分、都営大江戸線両国駅からもアクセス可能であり、九段下駅の混雑集中に比べて来場者の退場分散がスムーズである点も、都市型イベントとしての安全性を底上げしています。