「犯罪だと気づいた時点で辞めればいい」という甘い考えは通用しません。掛け子として一度足を踏み入れた人物が組織から抜け出せない理由には、組織が巧妙に仕掛ける二重三重の心理的・物理的拘束が存在します。
応募段階で組織は「本人確認」と称して、運転免許証やマイナンバーカードを持った自撮り写真、実家の住所、家族の勤務先、通っている学校名、さらには親族の電話番号まで提出させます。途中で犯行を拒否したり逃亡を図ろうとしたりすると、即座に暗号化通信アプリを通じて「実家を燃やす」「家族を危害に遭わせる」「学校や会社に犯罪者として晒す」といった直接的な脅迫が始まります。
さらに、社会心理学における「サンクコスト(埋没費用)効果」と「心理的孤立」が状況を悪化させます。海外アジトや密室に隔離された環境下では、周囲全員が詐欺行為に加担しているため、倫理観が急速に麻痺していきます。「もう警察に通報されたら終わりだ」「言われた通りに電話をかけ続けてノルマを達成するしかない」という極限状態に追い込まれ、自ら破滅への道を突き進むことになります。