病棟の最前線を取材すると、制度の文面だけでは見えてこない深刻な摩擦が明らかになります。特に受給者を悩ませているのが、「差額ベッド代の請求」と「入院時の持ち物費用」を巡るトラブルです。
都内の社会福祉事務所で稼働する中堅ケースワーカーは、近年の病床事情について次のように証言します。
「救急搬送された受給者の方が、病院到着直後に意識が朦朧としたまま『入院同意書』の束に署名させられ、その中に1日8,000円の個室差額ベッド代の承諾書が含まれていたという相談が後を絶ちません。退院時に10万円を超える請求書を渡され、当人は青ざめて福祉事務所に駆け込んできますが、生活保護費から差額ベッド代を肩代わりして支給する法的根拠は一切ありません」
ネット上の知恵袋や当事者コミュニティでも「大部屋が空いていないと言われて個室に入れられたのに、請求された」「生活保護なのに差額ベッド代を払わなければならないのか」という悲痛な書き込みが散見されます。
ここで知っておくべきは、生活保護差額ベッド代支払義務の真相です。厚生労働省の通知(保医発通知)において、以下の3つのケースでは医療機関側が患者に対して差額ベッド代(特別療養環境室料)を求めてはならないと明記されています。
- 患者側から同意書による明確な「自発的申し出」がない場合
- 治療上の必要性(感染症対策、重篤な状態、術後管理など)により隔離・個室管理された場合
- 病棟管理上の都合(大部屋が満床で、病院側の判断で個室に収容した場合)
つまり、「大部屋が空いていないから」という病院側の事情で個室に入った場合、患者側に支払いの義務は法的に存在しません。それにもかかわらず、受付窓口で「規則ですからサインしてください」と誘導され、言われるがままに同意書にサインしてしまうと、法的な支払い義務が成立してしまいます。
さらに見過ごせないのが、生活保護受給者の入院持ち物と費用の重圧です。近年の医療機関では院内感染防止や看護助手の業務軽減のため、パジャマ、バスタオル、日用品をセットにした民間アメニティサービス(CSセット等)の契約を強く推奨する動きが一般化しています。
実際に3週間の入院を経験した50代男性受給者は、手記の中で次のように実情を吐露しています。
「入院時に『手ぶらで入院できるセット』を勧められ、断りにくい雰囲気だったため1日500円のプランを契約しました。20日間で1万円です。さらにコインランドリーを使わずに済むよう靴下や下着もオプションに入れたところ、入院患者日用品費として支給された2万3,000円の半分以上がその引き落としで消え去りました。病室で飲むお茶を買うお金すら切り詰め、水道水を飲んで耐えるしかありませんでした」
受給者が入院する際は、可能な限り自前の前開きパジャマ、タオル、蓋付きプラスチックコップ、室内履き、洗面用具を持ち込み、民間セットの契約をきっぱり辞退する勇気が家計防衛の分岐点となります。