漢字の成り立ちを遡ると、事態はさらに知的興奮を帯びてくる。後漢の学者・許慎が著した最古の部首別漢字字典『説文解字』において、漢字は世界の成り立ちを解くコードとして整理された。許慎は「部」を「邑部に属す」と明確に規定し、集落を統率・区分する行為として定義づけている。
この解釈を独自の古代文字研究でさらに掘り下げたのが、孤高の碩学・白川静だ。白川の文字学によれば、右側の「邑」は祈りを捧げる聖なる土地であり、人びとが定住する区画を指す。一方、左側の「咅」は祝詞を入れる器の上に神聖な標識を重ねた象徴だ。つまり「部」とは、神聖な境界を定め、人びとを秩序ある共同体へと組み分ける儀礼から生まれた文字だったのである。単なる組織のセクションを指す記号ではなく、古代の人びとが大地に境界線を引いた凄まじい意志の痕跡が、この部首には凝縮されている。