天下統一の途上で倒れた織田信長に対し、世間は長らく「楽市楽座を導入した革新的英傑」あるいは「旧勢力を容赦なく切り捨てる残酷な独裁者」という極端な二項対立のイメージを抱いてきた。しかし、最新の文献調査はその人物像に全く異なる光を当てている。
歴史研究の現場で注目されるのは、彼が周囲の朝廷や寺社勢力に対して送った膨大な手紙の文脈だ。そこには、相手のメンツを細やかに立て、細心の注意を払って事前交渉を重ねる慎重な実務家の姿が浮かび上がる。映画『レジェンド&バタフライ』などで描かれた情熱的で破天荒な信長像の裏には、徹底的にリスクを計算する緻密なリアリストとしての素顔が存在していた。