数ある日本の展望地の中で、なぜ長崎・稲佐山からの眺望だけがグローバルな評価を獲得し続けているのか。その源泉は、長崎特有のすり鉢状のすり鉢地形にあります。すり鉢の底に位置する長崎港を取り囲むように、山々の急斜面ギリギリまで住宅街や商業地が立体的に張り付いており、読者の視界には奥行きと高低差を伴った「光のすり鉢」が360度パノラマで展開されます。光が平坦に広がる東京湾岸や平野部の夜景とは異なり、光の粒が押し寄せてくるかのようなダイナミズムを生み出す構造的要因がここにあります。
夜景観光コンベンション・ビューローが主導する国際会議において、幾度も高評価を得てきた世界新三大夜景の認定理由には、単なる光量測定だけでなく「夜間景観に対する都市全体の取り組み」が厳密に審査されています。長崎市では斜面市街地特有のフットライト整備や、女神大橋・国宝大浦天主堂をはじめとする歴史的建造物の戦略的ライトアップ、家庭用LEDの色彩調和に至るまで、自治体と市民が一体となった景観デザインが敷かれています。
また、現地でしばしば耳にする1000万ドルの夜景と呼ばれる理由について、かつて六甲山(神戸)の電灯消費電力をドル換算した「100万ドル」に端を発しますが、長崎では高度経済成長期の発展と港湾設備・住宅数の飛躍的増加に伴い、その価値が「1000万ドル」へと上方修正されて定着しました。港湾を行き交う大型客船の船影、対岸へと伸びる女神大橋のイルミネーション、水面に揺らめく反射光が加わることで、額面以上の価値を感じさせる情景を成立させているのです。