「手首を反らすとズキッと痛む」「ペットボトルのフタを開ける際に激痛が走る」といったトラブルにおいて、核心となるのが橈側手根屈筋の痛みと原因です。なぜこの筋肉に障害が集中するのでしょうか。整形外科専門医の知見によると、主な原因は解剖学的な狭窄構造と過度な反復動作の掛け合わせにあります。
最も典型的な病態が橈側手根屈筋腱炎の症状です。この腱は手首の付け根で大菱形骨結節という骨の溝を通り、狭いトンネル(腱鞘)を通過します。手首を反らした状態でのタイピング、重量物の運搬、ラケットスポーツでの強烈なスナップなどによって、腱と腱鞘が摩擦を繰り返し、微小断裂や無菌性炎症を引き起こします。症状としては、手首掌側の親指付け根を押した際の限局した圧痛、手首を背屈(後ろに反らす)させた際の牽引痛、そして手首を曲げる動作に抵抗をかけた際の鋭い痛みが挙げられます。
ここで一般の人が陥りやすいのが「ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)」との混同です。ドケルバン病は手首の「親指側・背側」を通る短母指伸筋腱および長母指外転筋腱の炎症であり、痛む場所が手の甲側に偏っています。一方、橈側手根屈筋腱炎は明確に「手のひら側の手首のシワ周辺」が痛むため、痛む面が表裏で正反対です。
さらに見逃せないのが、肘関節の障害であるゴルフ肘と内側上顆炎との深い因果関係です。前述の通り、橈側手根屈筋は肘の内側上顆から起始しています。ゴルフのスイングでダフった瞬間や、トップスピンをかけるテニスのフォアハンド、さらには長時間にわたり手首を固めてマウスを操作する動作は、筋肉の根元である内側上顆の付着部を強く引っ張り続けます。手首の腱炎を発症している患者の約34%に肘の内側上顆炎が併発しているという臨床報告もあり、手首の局所的な問題だけでなく、前腕全体を1つの運動連鎖として捉える必要があります。
また、鑑別診断として注意を要するのが正中神経麻痺との関係です。橈側手根屈筋は正中神経の支配を受けますが、手根管の手前を通過するため、手のひらがしびれる「手根管症候群」ではこの筋肉自体の運動麻痺は通常起こりません。もし手首の脱力とともに親指から薬指にかけて強いしびれが出ている場合、手根管よりも上位の肘部(回内筋症候群)や頸椎レベルでの神経絞扼が疑われるため、速やかな専門医受診が求められます。