冬の大三角を観察するにあたり、避けて通れない最大のトピックがベテルギウス超新星爆発の現在を巡る議論です。数年前、SNSや一部メディアで「ベテルギウスが歴史的な減光を記録」「いよいよ超新星爆発が秒読みか」と大々的に報じられ、天文ファンのみならず一般の間でも「オリオン座の形が変わる」「冬の大三角が直線になってしまう」と大きな話題を呼びました。
発端となったのは、2019年秋から2026年初頭にかけて観測された急激な「大減光(Great Dimming)」です。通常は0.4等星前後で輝くベテルギウスが、一時は1.6等星近くまで暗くなり、オリオン座のもう一つの主星リゲルはおろか、近隣の2等星と見分けがつかないほどに光を失いました。
当時、現場の天文学者や観測機器が総動員され、欧州南天天文台(ESO)の超大型望遠鏡VLTやハッブル宇宙望遠鏡による精密撮影が行われました。その結果判明したベテルギウス減光の理由と真相は、恒星内部の崩壊ではなく、恒星表面で起きたダイナミックな物質放出でした。
国立天文台や国際研究チームの発表資料によると、ベテルギウスの内部対流によって表面から巨大なガス塊が宇宙空間へ吹き飛ばされ、それが冷却されて膨大な「塵(ダスト)」へと相転移しました。この濃密な塵のベールが地球から見たベテルギウスの南半球側を物理的に覆い隠し、同時に局所的な巨大黒点(低温領域)が生じたことで、見かけ上の明るさが激減したのです。現在、ベテルギウスはこの塵の雲を脱し、本来の脈動サイクル(約400日の主周期や長期二次周期)に伴う通常の明るさを取り戻しています。
では、肝心の「超新星爆発」はいつ起きるのでしょうか。理論天文学のモデルによれば、ベテルギウスの中心核ではすでにヘリウムの核融合が進み、炭素や酸素の燃焼段階に達していると考えられています。恒星の寿命としては間違いなく「最終盤」に位置しており、明日爆発しても、10万年後に爆発しても、宇宙的な時間軸では「今すぐ」に相当します。
仮に爆発が起きた場合、夜空はどう激変するのでしょうか。最新のシミュレーションによれば、爆発直後から数カ月間にわたり、ベテルギウスは満月、あるいは半月に匹敵するマイナス10等からマイナス12等の猛烈な輝きを放ちます。昼間でも青空の中に青白い輝点として肉眼確認できるようになり、夜には地上に星の光で影ができるほどになります。その後、数年をかけて光を失い、最終的には肉眼では見えない超新星残骸(中性子星またはブラックホール)へと落ち着きます。その時初めて、人類が親しんできた冬の大三角はベテルギウスを失い、シリウスとプロキオンを結ぶラインへと姿を変えることになります。