「シロアリではないなら、木を食べないから放置しても大丈夫だろう」――インターネットの知恵袋や掲示板などで散見されるこの言説は、現場を知る専門家からすれば極めて危うい誤解と言わざるを得ません。確かにクロアリは木材セルロースを分解する消化器官を持たないため、健全な構造材を直接ムシャムシャと食べることはありません。しかし、だからといってクロアリ羽アリ家屋被害がゼロかといえば、現実は全く逆です。
深刻なのは、クロアリが「湿って腐朽した木材」や「壁内結露を起こしている断熱材」を削り取って巣(営巣空間)を作るという事実です。長年害虫防除にあたるベテラン調査員の手記には、次のような生々しい現場の証言が記されています。
「クロアリが浴室やキッチンの巾木(はばき)から大量に出てきた現場を解体したところ、基礎の土台が雨漏りと結露でスポンジ状に腐っており、その内部がアリの巨大な巣窟になっていた。さらに、その腐朽部位には以前シロアリが侵入した形跡すらあった」(大手防除専門会社・主任技師の調査記録より)
つまり、室内にクロアリの羽アリが大量発生している状態は、「壁の中や床下に、昆虫が好む高湿度な腐朽箇所がある」という住まいのSOSサインにほかなりません。さらにクロアリはシロアリの天敵であるため、先住していたシロアリのコロニーを襲撃・捕食してその空間を乗っ取っているケースも珍しくないのです。
また、住人が懸念するクロアリ羽アリ刺す危険性についても正確な理解が求められます。日本の室内でよく見られるトビイロケアリやクロヤマアリの羽アリは、人間を積極的に毒針で刺すことは基本的にありません。しかし、オオズアリなど大顎が発達した種類の兵アリに噛まれるとチクッとした痛みを感じることがあり、キイロシリアゲアリなどは刺激を受けると微小な針からギ酸を含む分泌液を出すため、敏感肌の子供やペットが触れると皮膚炎を起こすリスクがあります。特定外来生物であるヒアリのように致死的なアナフィラキシーを起こす確率は極めて低いものの、「決して無毒・完全無害とは言い切れない」という冷静な警戒が必要です。