養老の滝を語る上で欠かせないのが、古くから語り継がれる「孝子伝説(養老孝子物語)」です。貧しい木こりの源丞内(げんじょうない)が、老いた父親に大好物の酒を飲ませたいと山中深くへ薪を取りに入ったところ、岩間から湧き出る清らかな水が芳醇な美酒に変わっていたという伝承です。父親はその酒を飲んで若々しさを取り戻し、病を癒やしたと伝えられています。
この美談が都へと届き、第44代・元正天皇が霊亀3年(717年)に現地へ行幸。「若返りの水である」と称賛し、年号を「養老」へと改元した事実が続日本紀に明確に記録されています。ただし、現地取材や歴史史料を精査すると、ひとつの興味深い事実が浮かび上がります。元正天皇が実際に浴し、口にした霊水は、滝そのものの水ではなく、滝のすぐ下流にある養老神社の境内に湧き出る「菊水泉(きくすいせん)」であったという点です。
菊水泉はカルシウムやマグネシウムを適度に含む極めてまろやかな軟水で、名水百選にも選ばれています。現代の科学的見地から見れば、水がアルコールへと変質することはあり得ませんが、ミネラル豊富で冷涼な湧水が、過酷な労働に疲れた人々の身体を潤し、活力を蘇らせたことが「酒に匹敵する霊水」として伝説化した背景と考えられています。