まず押さえておきたいのが、正確な読み方と意味です。「一矢報いる」は「いっしむくいる」と読みます。「ひとやむくいる」や「いちやむくいる」と読むのは明らかな誤読です。「一矢」は文字通り「一本の矢」を指し、「報いる」は「受けた行為に対して応じる・やり返す」という意味を持ちます。
辞書的な定義では、「敵の攻撃に対して、わずかであっても反撃を加えること」「圧倒的に優勢な相手に対し、せめてもの抵抗を試みること」とされます。ここでのポイントは、戦況そのものを完全にひっくり返す(大逆転する)ことではなく、無抵抗のまま屈服することを拒み、相手に一矢を浴びせて爪痕を残すという点にあります。
この表現の由来・語源は、古代中国の戦乱期における合戦描写に端を発する故事成語的な背景を持っています。敵軍から無数に降り注ぐ矢の雨を浴び、自軍が壊滅的な危機に瀕しているなかで、屈することなく弓を引き絞り、渾身の一射を敵陣に射返した武士の気迫から生まれた言葉です。自分自身が傷つき倒れる寸前であっても、ただ黙って討たれるのではなく、己の存在と誇りをかけて一本の矢を放つという、武人の矜持(プライド)が凝縮されています。