メディアやSNSでは「首相は英語が流暢でなければならない」という言説が頻繁に語られますが、これは国際政治の実務においてしばしば指摘される大きな誤解のひとつです。
首脳外交の現場における「通訳を介した対話」には、単なる言葉の翻訳を超えた高度な戦略的メリットが存在します。
第一に、「思考時間の確保」です。相手の発言が通訳されている時間、そして自分の発言が訳されている時間を利用して、国家元首は次の一手や論理構成を深く練り直すことができます。ネイティブレベルでないリーダーが無理に直接英語で即答しようとすると、語彙の不足からニュアンスが単純化され、意図しない合意や誤解を生むリスクが跳ね上がります。
第二に、「外交記録の厳密性」です。外務省の公式通訳官が間に入ることで、会談内容が公的記録(外交文書)として正確に保存され、後々の外交摩擦を防ぐ防波堤となります。石破総理が通訳を重用する姿勢は、自身の語学力の誇示よりも、国家の意思決定における「制度の信頼性」を優先した結果であると捉えるのが妥当です。