口をテープで強固に塞がれたとしても、人間は完全に沈黙させられるわけではありません。これには音声生理学における発声と構音の明確な違いが関係しています。
声の原音は、肺から送られた呼気によって喉仏にある声帯が振動することで生まれます。この原音そのものは口が塞がれていても喉の奥で発生し続けます。声帯で作られた音は咽頭、口腔、そして「鼻腔」へと伝わり、鼻孔から外へと放出されます。口が完全に密閉されていても、鼻腔共鳴によってハミングのような「鼻音」は容易に外へ響き渡るのです。
さらに、日本語の母音(ア・イ・ウ・エ・オ)の響きは口内の容積変化によって作られるため、唇が開かなくとも口腔内で舌を動かすだけで、ある程度の母音の違いを聞き分けることが可能です。人間がパニック状態で全力で喉を鳴らした場合、その音量は70〜80デシベル(騒々しい街頭やセミの鳴き声に匹敵)に達することもあり、密室の外にいる人間に異常を知らせるには十分な音量となります。
また、人間の唇は油分や唾液を常に分泌しており、内側から舌で強く押し出したり顎を大きく動かしたりすることで、一般的な粘着テープであれば内側から生じる圧力で隙間が生じ、そこから呼気とともに直接的な音声が漏れ出すのが自然な物理挙動です。