爪の根元にある「爪母(そうぼ)」と呼ばれる部位では、爪を作る細胞が24時間体制で絶え間なく分裂を繰り返している。手の爪は1日に約0.1ミリ、1ヶ月で約3ミリのペースで爪先へと押し出されるが、この細胞分裂が何らかの内部的・外部的要因によって一時的に停滞、あるいは阻害されたとき、表面に目に見える凹凸が形成される。
一口に「爪が凹んでいる」と言っても、その現れ方は臨床的に大きく4つのパターンに分類され、背後に潜む疾患や原因は全く異なる。
第1に、爪を横切るように走る溝である「ボー線条(Beau's lines)」だ。これは、ある特定の時期に爪母の機能が一時的に急停止した痕跡である。爪の根元から溝までの距離を計測すれば、「何ヶ月前に心身へ破滅的なダメージが加わったか」を逆算できる。40度近い高熱を伴う感染症、全身麻酔を伴う大手術、あるいは極度の精神的トラウマを経験した約2〜3ヶ月後に爪の中央付近へ溝が出現するケースが極めて多い。
第2に、爪の中央が窪んで反り返り、まるでスプーンのように水をすくえる形状になる「スプーン爪(匙状爪・コイロニキア)」である。この主たる原因は鉄欠乏性貧血だ。体内の貯蔵鉄(フェリチン)が枯渇すると、爪の硬度を保つケラチン構造が脆弱化し、指先にかかる外圧に負けて爪が反り返ってしまうのである。
第3に、針で突いたような無数の小さな穴が開く「点状陥凹(pitting)」だ。これは尋常性乾癬(かんせん)や円形脱毛症などの自己免疫性疾患において頻繁に観察される所見であり、爪母の不全角化によって生じる。単なる栄養失調と誤認されやすいが、皮膚科的専門治療を要する明確な病態である。
そして第4に、表面が全体的に波打ち、爪がぼこぼこと凹凸を繰り返す状態である。これは慢性的な亜鉛不足やタンパク質不足、あるいは自律神経失調に伴う末梢循環不全が引き金となっているケースが大半を占める。