長寿アニメにとって避けて通れない最大の試練が、主要キャラクターの「声優交代」です。『クレヨンしんちゃん』においては、主人公・野原しんのすけ役を務めた矢島晶子氏の降板劇、そして野原ひろし役の藤原啓治氏の逝去に伴う交代が、ファンの間で深く刻まれています。
2018年6月、放送開始から26年間にわたりしんのすけの声を担当してきた矢島晶子氏が降板を発表しました。公式発表資料および矢島氏のコメントによると、その理由は「健康上の問題」ではなく、「しんのすけの声を保ち続ける作業が難しくなり、キャラクターの声を作る作業に意識が取られ、自然な演技表現との乖離に限界を感じたため」という、極めて純粋な表現者としての誠実な葛藤によるものでした。初期の自然な幼少期ボイスから、年月の経過とともに独特の節回しを持つ唯一無二の「しんちゃん声」へと進化させた結果、声帯にかかる負荷と演技の整合性に真摯に向き合った末の勇退でした。
2018年7月より後任を引き継いだ小林由美子氏は、プレッシャーの中で矢島氏の築き上げたイントネーションと魂を徹底的に研究。当初は「違和感がある」といった一部の声もあったものの、小林氏ならではの元気と愛嬌に満ちた演技は急速にお茶の間に浸透し、2026年の現在では「小林しんちゃん」として完璧な支持を獲得しています。
また、野原ひろし役を演じた名優・藤原啓治氏の病気療養に伴い、2016年から役を引き継いだ森川智之氏の存在も見逃せません。森川氏は藤原氏の芝居の間合いや包容力を完璧にリスペクトしつつ、哀愁と父親としての力強さを見事に体現し、作品のクオリティを堅守し続けています。