平壌訪問という賭けに出た小泉純一郎首相と、それを陰で支えた外務省の官僚たち。彼らが直面したのは、国家の尊厳と人道主義が複雑に絡み合う過酷な駆け引きだった。外務省アジア大洋州局長だった田中均氏らを中心とする水面下の極秘ルート(いわゆるMr.Xとの交渉)は、1年以上にわたり極秘裏に進められた。国交正常化の道筋をつけることと、拉致被害者の救出という二つの課題の狭間で、官僚たちの葛藤は限界に達していた。
小泉純一郎は金正日との直接会談で、妥協のない姿勢を突きつけた。結果として5人の被害者の帰国が実現したものの、横田めぐみの消息を巡る北朝鮮側の回答には、あまりにも多くの疑問符が残された。外務省内部でも北朝鮮の言明をどこまで信頼すべきか激しい議論が巻き起こり、その後の対北朝鮮外交のあり方を決定づける教訓となった。