医療情報があふれる現代のネット空間には、皮膚の変色に関する誤った民間療法や危険な思い込みが散見されます。現場の救急医や皮膚科医が最も頭を抱えているのが、「放置された巨大血腫」と「自己流マッサージによる症状悪化」です。
第1の誤解は、「あざは揉めば早く散って消える」という根拠のない俗説です。打撲直後の皮下組織では破綻した毛細血管が血小板の血栓によってようやく塞がりかけています。このタイミングで患部を強く揉んだりマッサージしたりすると、脆弱な血栓が破壊されて再出血を引き起こし、斑状出血を巨大な血腫へと悪化させてしまいます。さらに、強く揉むことで筋肉内の微小断裂を招き、筋肉の中にカルシウムが沈着して骨のような硬い塊ができてしまう「骨化性筋炎(myositis ossificans)」という後遺症を招くリスクすらあります。
第2の盲点は、ヘパリン類似物質(ヒルドイド等)の不適切な急性期使用です。血行促進・保湿作用を持つヘパリン類似物質は、外傷から数日〜数週間経った陳旧性の皮下出血の吸収促進には有効な場合がありますが、受傷直後や出血が続いている急性期に塗布すると、抗凝固作用によって出血が助長され、あざの範囲が何倍にも拡大する恐れがあります。
そして最も危険な落とし穴が、下腿(すねやふくらはぎ)や前腕の強打によって引き起こされる「急性コンパートメント症候群(区画症候群)」の見落としです。筋肉や血管、神経は「筋膜」という伸び縮みしにくい硬い膜でいくつかの区画(コンパートメント)に仕切られています。強打によって筋膜の中で大量の内出血や激しい浮腫が起きると、区画の内圧が異常に上昇して毛細血管を圧迫し、筋肉への血流が途絶してしまいます。受傷から数時間から半日で発症し、皮膚の変色だけでなく「患部の激しい緊満感(パンパンに張る)」「他動的に指を曲げたときの激烈な痛み」「感覚麻痺」を伴います。これを見逃して放置すると筋肉の壊死や不可逆的な神経麻痺を引き起こし、最悪の場合は手足の切断を余儀なくされる救急疾患です。「たかが打撲のあざ」と高を括る姿勢は極めて危険です。