『はだしのゲン』が問いかけるものは、決して架空のホラーではない。広島市平和記念資料館に展示されている遺品や被爆資料を見れば、中沢啓治が描いた世界がまさに現実の縮図であったことが理解できる。歪んだ三輪車、破れた服、そして凄惨な写真資料——それらは作品内のコマと地続きの歴史事実だ。
作品が残した「トラウマ」の本質は、悲惨な過去を風化させないための警告装置でもある。惨状をリアルに描くことによってのみ伝えられる戦争の愚かしさと平和の価値。資料館が伝える歴史の実相とゲンが描いた感情の叫びは、時代が変わっても色あせることのないメッセージを現代人に突きつけている。