映画『劇場版 緊急取調室 THE FINAL』は、当初2023年6月16日に全国東宝系で大規模公開される予定でした。前売り券(ムビチケ)の販売や各種メディアでのプロモーションが最高潮に達していた同年5月18日、社会を揺るがす突発的事案が発生します。作品の核心である内閣総理大臣・長内洋次郎役を務めていた歌舞伎俳優・市川猿之助(当時)を巡る一連の事件でした。
配給の東宝およびテレビ朝日は直ちに対応協議に入り、公開わずか半月前となる2023年6月1日、「総合的な判断により、公開を延期する」との公式リリースを発表しました。通常のドラマや映画であれば、該当シーンを編集でカットしたり、CG技術で修正したりする回避策も議論の俎上に載ります。しかし、本作における首相役は単なるゲスト出演者ではありませんでした。
映画のプロットは、巨大台風が直撃するなかで発生した総理暗殺未遂事件を端緒とし、真壁有希子ら「緊急事案対応取調班」が国のトップである首相自身を密室で直接取り調べるという、シリーズ最大のクライマックスを担う設定でした。上映時間の大部分にわたり主役と対峙するキーパーソンである以上、カットやトリミングによる部分的な修正は構造的に不可能だったのです。
映画業界関係者の証言によると、「劇場用パンフレット数十万部の刷り直し、タイアップキャンペーンの中止、シネコン各館のスクリーン再調整など、公開直前の停止に伴う損害額は公開前から極めて甚大だった」と振り返ります。それでも製作委員会がお蔵入りを選択せず、再撮影への道を選択したのは、脚本家・井上由美子が紡ぎ出した物語への敬意と、シリーズを10年間支え続けたファンに対する誠意でした。