劇場アニメ版『聲の形』のラストシーンは、退院した石田将也が高校の文化祭に足を運び、これまで周囲の人々の顔に貼り付いていた「×印」が剥がれ落ちて世界を取り戻し、涙を流す場面で幕を閉じます。映像作品としての完成度とカタルシスは極めて高い評価を受けましたが、原作漫画の物語はそこでは終わりません。
原作コミックス第7巻に収録された最終話(第62話)で描かれたのは、高校を卒業してから2年後、20歳を迎えた登場人物たちが地元・岐阜県大垣市の成人式会場に集う姿です。将也は母と同じ道を歩むべく理容師を目指して専門学校に通い、西宮硝子もまた東京の美容専門学校へ進学して自立への一歩を踏み出していました。
ネット上では「結末でふたりは告白して付き合ったのか?」という恋愛的な関心が頻繁に検索されています。しかし作中において、明確な愛の告白や恋人同士になったという描写は一切存在しません。小学校時代の加害者と被害者という歪な関係から始まり、高校での再会、互いの自殺未遂という極限の精神的危機を経て辿り着いたのは、単なる恋愛関係という安易な枠組みを超えた「生きる痛みを共有する伴侶」としての絆でした。
成人式の控室前、将来への不安と過去のトラウマに足をすくませる将也に対し、硝子はそっと手を差し伸べます。ふたりは互いの手をぎゅっと握り締め、成人式の会場へと続く重い扉を力強く押し開けます。扉の向こうに広がる光とざわめきの中に飛び込んでいくこのラストカットこそ、過去の過ちを抱えたまま、それでも他者と関わり続けて生きていくという本作の真のメッセージを象徴しています。