彩の国さいたま芸術劇場の座席選びにおいて、劇場の構造的特徴を把握しておくことは鑑賞満足度を左右する決定打となります。香山壽夫建築研究所が手掛けた円形広場(ロトンダ)を囲むシンメトリーな建築群のなかでも、主力を担う大ホール(客席数776席)と音楽ホール(客席数604席)は、それぞれ明確に異なる空間設計が採用されています。
演劇やダンス公演の主舞台となる大ホールは、舞台と客席の一体感を極限まで高めたプロセニアム/オープンエンド可変型の劇場です。1階席の前方(1〜5列目)は役者の息遣いや細かな表情、衣装の擦れる音までダイレクトに伝わる圧倒的な臨場感を誇ります。ただし、舞台床面がやや高めに設定されているため、最前列付近では視線を見上げる角度が強くなり、舞台奥の足元演出が見えづらくなるケースがあります。舞台全体の美術セットや照明演出、空間構成をバランス良く堪能したい場合、「7列目〜13列目の中央ブロック(15番〜28番)」が音響・視界ともに最も優れた黄金席となります。
傾斜(スタジアム状の段差)が6列目以降からしっかりと付けられているため、前の人の頭で舞台中央が完全に遮られるリスクは極めて低く抑えられています。一方で、注意を要するのが2階バルコニー席(サイド席)です。舞台を斜め上から見下ろす独特のアングルは空間の奥行きを感じられる反面、安全確保のために設置された金属製手すりが舞台手前側の動線に被る「部分的な見切れ」が生じます。チケット販売時に「見切れあり」「注釈付き指定席」としてアナウンスされる座席を選ぶ際は、オペラグラスの持参や身体の傾きに配慮した観劇計画が不可欠です。
クラシック音楽やリサイタル専用の音楽ホールは、優れた音響工学に基づいたシューボックス(靴箱)型を採用しています。天井高のある直方体空間全体に美しい自然残響(満席時で約1.8秒)が広がるため、音響バランスを最重視するならば「1階中通路後方の7〜11列目センター」あるいは「2階バルコニー正面最前列」が極上のリスニングポイントです。ピアノのリサイタルでは、鍵盤と演奏者の手元を視認できる下手側(座席番号の若い側)が早い段階で埋まる傾向にあります。