文章の表現形式そのものに罠を仕掛ける「叙述トリック」は、読者を欺く最高峰の手法です。活字表現ならではの盲点を突き、ラスト1ページで騙されるあの戦慄は、まさに紙の本をめくる特権と言えます。
このジャンルを語る上で外せない叙述トリックの名作として、綾辻行人の『十角館の殺人』が挙げられます。孤島で起きる連続殺人の果てに放たれる「あの一行」は、日本の推理小説史を塗り替えた伝説のフレーズです。また、我孫子武丸の『殺戮にいたる病』は、冒頭で犯人が明示されているにもかかわらず、最終盤で読者の認識を粉砕する異色の構成で知られています。
さらに、歌野晶午の『葉桜の季節に君を愛するということ』は、青春小説のような軽快な筆致の裏に恐るべき罠を隠し、読了後には世界の見え方が根本から変わる体験を約束してくれます。いずれも本格ミステリーにおけるどんでん返しの到達点として、色褪せることのない輝きを放ち続けています。