「スマホがなかった時代のほうが幸せだったのではないか」という議論は、単なる過去へのノスタルジー(美化)だけでは片付けられません。精神医学や社会心理学の観点からも、常時接続社会がもたらす「インフォメーション・オーバーロード(情報過多)」と「社会的比較」が、現代人の幸福度を押し下げている要因として指摘されています。
2026年現在、私たちは常に他人のキラキラした生活、ネガティブなニュース、仕事の緊急連絡に晒され、脳が休まる暇がありません。「既読がついたのに返信がない」「SNSで仲間外れにされていないか」といった接続のプレッシャー(FOMO:取り残される恐怖)は、スマホ以前の時代には存在し得なかったストレスです。かつては家に帰って電話の受話器を置けば、そこからは完全なプライベート空間であり、誰にも侵されない聖域でした。
もちろん、見知らぬ土地で道に迷ったときの心細さや、緊急時の連絡の取りづらさなど、スマホの恩恵は計り知れません。しかし、偶発的な出会いや寄り道といった「セレンディピティ(予期せぬ幸運)」を楽しむ余裕は、目的地まで最短ルートで案内してくれる現代よりも、迷いながら歩いた時代のほうが圧倒的に豊かだったといえます。「不便さの中にあった精神の自由」こそが、今なお多くの人々を惹きつける理由です。