勝者にのみ掲げることが許される黄金のトロフィーにも、数奇な歴史と人間ドラマが存在します。初代トロフィーである「ジュール・リメ杯」は、ギリシャ神話の勝利の女神ニケを象ったものでした。当時の規定では「3回優勝した国が永久保持できる」と定められており、1970年に3度目の優勝を果たしたブラジルへ永久譲渡されました。しかし、1983年にリオデジャネイロで盗難に遭い、現在もその行方は分かっていません(溶解された説が有力)。
1974年西ドイツ大会から導入されたのが、イタリアの彫刻家シルビオ・ガザニガによってデザインされた現在の「FIFAワールドカップトロフィー」です。高さ36.8cm、重さ約6.175kgの18金無垢で作られたこのトロフィーは、現在はいかなる国も永久保持することはできず、優勝国には金メッキが施された真鍮製のレプリカ(プロトタイプ)が授与される厳格な運用方針が採られています。
カタール大会の決勝戦後、特番インタビューや自著・手記でリオネル・メッシが語った「長いキャリアの中で、このトロフィーだけが私に欠けていたピースだった」という生の告白は、フットボール界におけるこのトロフィーの絶対的重みを物語っています。SNSやファンコミュニティでも「メッシの戴冠によってフットボールの歴史が一つの完成を見た」と熱狂的に支持された背景には、重圧に晒され続けた主将が最後に手にした人間的カタルシスへの共鳴がありました。