森林限界を超えた高山帯で木が育たない現象には、直感的な寒さ以上の厳格なメカニズムが存在します。植物が生理的に生存できない決定的な理由は、主に次の3点に集約されます。
第1の理由は「光合成による成長期間の圧倒的不足」です。樹木は春から夏にかけて光合成を行い、冬を生き延びるためのエネルギーを蓄えます。しかし高山では暖かい期間が極めて短く、新しく伸ばした枝や葉の細胞壁を十分に成熟させることができません。消費するエネルギーが生産量を上回ってしまうため、高木としての体を維持できなくなります。
第2の理由は「冬期の強風と凍結乾燥」です。稜線近くでは吹き荒れる寒風によって雪が吹き飛ばされ、露出した枝葉が氷の粒に削り取られます。さらに土壌が凍結している冬場は根から水分を吸い上げられないため、強風に晒された葉から水分が蒸散し、植物組織が乾燥死してしまう「冬期乾燥」が発生します。
第3の理由は「未発達な土壌と多雪による物理的破壊」です。急峻な高山帯は岩礫(がんれき)が多く、樹木がしっかりと根を張るための肥沃な土壌層が形成されにくい環境です。また、豪雪地帯では雪崩や積雪の沈降圧によって幹がへし折られるため、立ち木としての成長が物理的に阻害されます。