恐怖の対象としてのみ語られがちな世界最大の蜘蛛ですが、生息地である南米アマゾンの先住民族(ヤノマミ族やピカロ族など)にとって、彼らは全く異なる意味合いを持っています。それは、過酷な密林で得られる「極めて高栄養なタンパク源・伝統的ごちそう」としての顔です。
現地の狩猟採集民は、林床の巣穴の入り口を巧みに見つけ出すと、細い木の枝を差し込んでクモを誘い出し、素早い手さばきで頭胸部を押さえ込んで捕獲します。捕獲後はすぐさま火にかざして危険な刺激毛を完全に焼き払い、バナナの葉に包んで蒸し焼きや炭火焼きにします。現地を調査した文化人類学者や探検家の手記によると、その味は「甲殻類そのもので、カニやロブスターの肉身を少しスモーキーにしたような濃厚な美味」と評されており、特に腹部の卵や筋肉質な歩脚の肉は貴重な栄養源として珍重されてきました。
一方で、日本を含む先進国の奇虫・エキゾチックアニマル愛好家の間では、この巨大蜘蛛は憧れの最高峰として扱われることがあります。しかし、飼育経験者のコミュニティや実体験の記録を検証すると、そのハードルは並大抵ではありません。
南米の熱帯雨林特有の「高温かつ極めて高い湿度(80%以上)」を維持し続けなければ、脱皮不全を起こしてあっけなく命を落とします。さらに前述した刺激毛は、飼育ケースの蓋を開けてメンテナンスを行うわずかな気流の乱れでも空気中に舞い上がります。あるベテラン飼育者は「どれほど気をつけていても、部屋の換気時に刺激毛を吸い込んでしまい、喉が激しく腫れて夜も眠れなくなった。生半可な覚悟で手を出してはいけない」と自らの痛烈な失敗談を語っています。その壮大さに魅了される人間が多い一方で、共存には極めて過酷な代償と徹底した安全管理が伴うのが実態です。