Mrs. GREEN APPLEの「ロマンチシズム」が持つ最大の魅力は、聴き手の年齢や境遇によってまったく異なる表情を見せる重層的なリリック構造にあります。資生堂「シーブリーズ」のテレビCMソングとして広くお茶の間に浸透したため、初見では「みずみずしい学生の恋模様」を描いた王道ポップスと受け取られがちです。しかし、歌詞の全編を一歩踏み込んで読み解くと、そこに描かれているのは他者への盲目的な思慕ではなく、「人間という生き物の不完全さに対する絶対的な受容」であることが分かります。
大森元貴が作詞作曲の過程で提示した根源的なテーマは、「他者を愛そうとする行為そのものに潜むエゴ」と「自己愛の確立」です。楽曲中盤で提示される「愛を育む前に 己を愛さなきゃね」というフレーズは、恋愛関係における甘美な幻想を鮮やかに打ち砕き、人間関係の本質へと聴き手を引き戻します。自分自身の弱さ、醜さ、未熟さを受け入れることができて初めて、目の前の他者と対等かつ誠実に向き合うことができる――。この冷徹なまでのリアリズムこそが、本作を単なる恋愛ソングから高潔な「人間讃歌」へと昇華させている決定的な理由です。
曲名に冠された「ロマンチシズム(Romantisme)」という語は、日本語で「ロマン主義」や「空想的・情緒的な態度」を指します。現実の生々しい葛藤から目を背け、美しい物語だけに逃げ込もうとする心理へのアイロニーを含みつつ、それでもなお「誰かを愛さずにはいられない人間の不条理な美しさ」を肯定する。この二律背反の感情を同時に抱き締める大森元貴の詩情が、発売から年数を経ても色褪せない普遍的な感動を生み出しています。