かつて医療現場や家庭の必需品であった水銀体温計が店頭から姿を消した最大の理由は、水銀に関する水俣条約の発効に伴う法規制です。2013年に熊本県で開催された外交会議で採択された同条約は、地球規模での水銀汚染と健康被害を防ぐ目的で策定されました。日本国内でも「水銀による環境の汚染の防止に関する法律」が整備され、2020年12月31日をもって水銀を使用した体温計や血圧計の製造および輸出入が原則禁止となりました。
市場から消えたのは単に「壊れやすいから」や「電子体温計が安くなったから」だけではありません。環境中に放出された水銀が大気や海洋を循環し、食物連鎖を通じて生態系や人体に深刻な影響を与えるリスクを国際社会全体で根絶するための決定でした。現在、国内のドラッグストアや家電量販店で新品の水銀体温計を購入することは基本的にできず、医療現場や一般家庭の計測機器はほぼ100%電子式や赤外線式へと置き換わっています。