水芭蕉を愛でる上で知っておくべき最大の学術的ポイントは、私たちが「白い花びら」だと思っている部分は植物学上の花ではないという事実です。
水芭蕉の白い花びらのように見える部分は、葉が変形した「仏炎苞(ぶつえんほう)」と呼ばれる器官です。仏像の背後にある炎の形をした光背(こうはい)に似ていることからその名が付けられました。仏炎苞は、冷たい春の風や遅霜から中心部を守るシェルターの役割を果たしています。
では、水芭蕉の本当の花はどこにあるのか。中心にすっくと立つ黄色から黄緑色の円柱状の部分、これが「肉穂花序(にくすいかじょ)」と呼ばれる部分であり、ここに数ミリ程度の小さな花がぎっしりと密集(数百個単位)して咲いています。花弁すら持たない無数の小さな小花が円柱状に集まり、外側を1枚の白い苞が優雅に包み込む——これが水芭蕉の精巧な形態構造です。