これまで半世紀近くにわたり、なぜ多くの車がルームミラーの裏側にステッカーを貼っていたのでしょうか。最大の理由は「運転席からの前方視界を1ミリたりとも遮らないため」でした。しかし、その配慮が皮肉にも重大な法令違反の温床を生み出す結果となりました。
位置変更の決定的な理由は、社会問題化していた「うっかり車検切れ(無車検運行)」の急増にあります。ルームミラーの死角にステッカーが隠れてしまう構造上、多くのドライバーが車検満了日の確認方法を失念し、車検が切れている事実に気づかないまま公道を走り続けてしまうトラブルが多発していました。
国土交通省の調査データや警察庁の交通指導取締りの現場報告によると、無車検運行で摘発されたドライバーの半数以上が「悪意のある放置」ではなく「満了日を単に思い違いしていた、見落としていた」という過失でした。車検が切れた車両は同時に自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)も切れているケースがほとんどであり、その状態で人身事故を起こせば被害者救済も加害者の人生も破綻します。こうした悲劇的な構造リスクを物理的に根絶するため、毎日の乗車時に否応なく目に入る運転席側上部への配置が義務付けられました。