ライ症候群の臨床経過において最も恐ろしいのは、先行する風邪症状が治まりかけたタイミングで急激に悪化する点です。典型的なパターンでは、インフルエンザや水痘による発熱が始まってから5〜7日後、熱が平熱近くまで下がり始めた頃に最初の異変が生じます。
その初期症状は、突然始まる激しい嘔気と反復する嘔吐です。水分を口にしただけでも激しく吐き戻し、吐瀉物が透明な胃液や胆汁混じりの黄色に変化しても吐き気が収まりません。この段階を一般的な胃腸風邪と誤認して見過ごすと、数時間から半日のうちに病態は神経症状へと一気に進行します。
神経学的ステージ分類(Lovejoyの病期分類)に基づく推移は以下の通りです:
- ステージ1(初期):頻回かつ激しい嘔吐、極度の倦怠感、無気力、傾眠傾向。
- ステージ2(興奮期):見当識障害、激しい不穏、錯乱状態、せん妄、過呼吸、反射亢進。呼びかけに対して奇声を上げたり、暴れたりする。
- ステージ3(昏睡期):除脳硬直(四肢を突っ張る異常な姿勢)、深い昏睡状態、対光反射の減弱。
- ステージ4〜5(終末期):深昏睡、瞳孔散大、自発呼吸の停止、脳幹機能の喪失。
「熱が下がったのに視線が合わない」「ぼんやりとしてこちらの問いかけに返答がない」「突然興奮して意味不明な言葉を口走る」といった異変は、頭蓋内圧亢進と脳浮腫が限界に達しつつある緊急事態のシグナルです。一刻の猶予もなく三次救急指定病院や小児専門医療機関への搬送を要します。