愛媛県西予市野村町を流れる肱川流域では、ダム操作を巡る大きな論争が巻き起こりました。死者5名を出した氾濫の引き金と目された野村ダムの緊急放流の真相です。ダムが満水寸前となった7月7日早朝、管理事務所はダムの決壊を防ぐため、流入した水と同量の毎秒約1,800立方メートルの水をそのまま放流する「異常洪水時防災操作」に踏み切りました。この操作により、下流の野村町中心街は短時間で数メートル浸水しました。
当時、平成30年7月豪雨におけるネットの反応や被災現場からは「ダムが町を水に沈めた」「人災ではないか」という苛烈な批判が噴出。放流操作の責任を巡って住民による国家賠償請求訴訟へと発展しました。しかし、国土交通省の検証委員会や司法判断において示された事実は、法規上の義務違反を問うことの難しさと、ダムの設計限界という冷酷な現実でした。
流入量がダムの治水計画容量を大幅に超過する事態において、放流を絞り続ければダム堤体自体の越水・決壊を招き、下流一帯が壊滅的な津波状態に襲われるリスクがありました。操作規則に基づけば緊急放流は「決壊を避けるための最終手段」であり、規則通りの操作だったと認定されています。しかし、放流開始前のサイレン吹鳴や広報車による警告が、深夜から早朝の豪雨音にかき消され、住民に切迫した危機感として伝わっていなかったコミュニケーションの破綻こそが、防ぐべき最大の落ち度であったといえます。