大谷直子のキャリアにおいて、最も鮮烈な官能と狂気を刻み込んだ作品が、1980年公開の映画『ツィゴイネルワイゼン』(鈴木清順監督)です。内田百閒の短編小説『サラサーテの盤』などを下敷きにした本作で、彼女は主人公・青地(藤田敏八)の貞淑な妻「園」と、青地の友人である中砂(原田芳雄)が連れてきた狂気の芸妓「小稲」という、対照的な一人二役を見事に演じ分けました。
本作における大谷直子の濡れ場や官能シーンが特別なのは、安易な肉体美の誇示ではなく、精神の深淵を抉り出すような映像美学に昇華されている点です。特に中砂との逢瀬や、崩壊していく日常の中で漂わせる生々しい情念は、観る者を陶酔させました。
ファンの間で今なお語り草となっているのが、赤い絨毯の上で繰り広げられる幻想的な絡みや、「骨をしゃぶる」という鈴木清順美学の極致とも言えるシークエンスです。死生観とエロティシズムが濃密に溶け合ったこの名シーンにおいて、彼女がみせた妖艶な眼差しと息をのむような色香は、昭和映画史における最高の濡れ場のひとつとして国内外で絶賛されました。