戦争の過酷な体験によって負った魂の飢えを癒やすかのように、1970年代以降の開高健は「水辺」へと向かいます。彼は日本におけるルアーフィッシングの先駆者としても知られ、竿を携えて地球のあらゆる秘境へと旅立ちました。
その壮大な釣行の記録として結実したのが、1978年から連載が始まった紀行ドキュメント『オーパ!』シリーズです。ブラジルのアマゾン川をはじめ、アラスカの極北、カナダの清流、南米の湿原など、巨大魚ピラルクーやキングサーモンを求めて繰り広げられた冒険は、読者の冒険心を強烈に揺さぶりました。「オーパ(驚きや感動を表すポルトガル語の間投詞)」という言葉は、大自然の神秘と生命への畏敬を象徴する合言葉として当時の若者や釣り人の間で社会現象となりました。
開高健にとっての釣りは単なる趣味ではなく、獲物と対峙することで生きている実感を掴み取る「闘争」であり、文明論的な思索を深める儀式でもありました。彼が愛用したルアーやタックル(釣り具)へのこだわりは、道具を通じた自然との対話を重んじる姿勢そのものでした。