ビジネスメールや受付対応で非常によく見聞きする「お伺いいたします」という言い回し。国語教育やマナー本で「二重敬語だから誤り」と指摘されるケースがある一方、現場では定型句のように定着しています。この実態と文法構造の真実を検証します。
文法を細かく分解すると、「お+伺う(謙譲語Ⅰ)+いたす(謙譲語Ⅱ)+ます(丁寧語)」という構造になっています。1つの単語に対して同じ種類の敬語を重ねることを二重敬語と呼び、原則として文法違反とみなされます。「伺う」という語自体がすでに完成された謙譲語であるため、そこに「お〜いたす」という謙譲表現を重ねている「お伺いいたします」は、学術的な定義上は確かに二重敬語に該当します。
しかし、文化庁の「敬語の指針」や現代の日本語学会の見解では、社会的な慣用として広く浸透し、違和感なく定着した表現については「過度に排除する必要はない」とされています。大手企業や接客業界におけるマナー調査でも、8割以上の実務現場で「お伺いいたします」が失礼とは受け取られず、むしろ丁寧な姿勢として容認されているという実態があります。
とはいえ、言葉の正確性を重んじるシニア層や文章のプロに対しては、わずかな違和感を与えるリスクがゼロではありません。文法的な厳密さとスマートさを両立させるなら、過剰に飾らず「伺います」「お聞きいたします」「お尋ねします」と言い換えるのが最も知的な選択肢です。