朝、いつも通りの淡々としたルーティン。コンビニの冷めた弁当。どこか冷めた目をした小熊の日常は、文字通りモノクロームの世界だった。しかし、坂道を上る自転車の重さに息を切らしたあの日、彼女はふらりと中古バイクの販売店へと足を踏み入れる。そこで提示された破格の「1万円」という価格。過去に事故があったいわくつきの車両という条件付きで彼女の相棒となったのが、黄色いナンバーをつけた中古のホンダ・スーパーカブ50だった。
初めてセルを回した瞬間のエンジン音。体に伝わる微かな振動。ヘルメット越しに見える風の冷たさ。バイクを手にしたことで、小熊の行動範囲は学校と自宅の往復という狭い檻を打ち破る。ホームセンターへ通い、リアボックスを取り付け、遠くの街へコーヒーを買いに行く。その一つひとつの小さな「冒険」が、彼女の閉ざされた心を開かせていく。礼子や恵庭椎といった仲間との出会いもまた、カブという共通言語が存在したからこそ生まれた必然のドラマと言える。