では、手首に負担をかけずに症状を鎮静化させるにはどうすれば良いのでしょうか。現在、手外科のリハビリテーション現場で推奨されているのが、無理な伸張をかけずに神経の可動性を回復させる正中神経ストレッチ(神経滑走運動/グライディングエクササイズ)です。
神経滑走運動の目的は、筋肉を強く伸ばすことではありません。手根管内で周囲の腱と癒着し、動きが滞っている正中神経を「糸を通すように滑らかに滑らせる」ことで、血流を再開させて組織の滑走性を高める点にあります。
道具を一切使わず、自宅や職場のデスクで安全に実践できる手首ストレッチの正しいやり方を順を追って解説します。
【ステップ1:基本肢位(ニュートラルポジション)】
背筋を伸ばして椅子に座り、肘を90度に曲げて手のひらを自分の胸に向けます。指は軽く曲げ、手首は反らさず真っ直ぐに保ちます。
【ステップ2:手指と手首の同時伸展】
親指を含めたすべての指をゆっくりと伸ばし、同時に手首を軽く手の甲側へ反らせます。このとき、強いしびれや痛みが出ない手前の角度(およそ45度以内)で止めるのが最大の鉄則です。
【ステップ3:親指の外転(パーの形)】
指を開いた状態のまま、親指だけを手のひらの面から直角に外側へ広げます。手首の角度は固定したまま保ちます。
【ステップ4:前腕の回外(手のひらを上に向ける)】
ステップ3の形を保ったまま、前腕をゆっくりと外側に回し、手のひらが完全に天井を向くように回転させます。正中神経が心地よく引き伸ばされる刺激を意識してください。
【ステップ5:反対側の手による親指の軽い牽引】
余裕があれば、反対側の手で広げた親指の先端を優しく持ち、後方へとわずかにアシストします。決して強い力で引っ張ってはいけません。
この一連の動作を1回あたり5秒間キープしながら丁寧に行い、1セット5回、1日3回(朝・昼・入浴後のリラックス時)を目安に実施します。しびれが強くなる場合は直ちに中止し、角度を浅くしてください。「痛みを我慢して行わない」ことこそが、手根管症候群のしびれの治し方として最も再現性の高いアプローチです。