文化庁が提示する著作権法の枠組みにおいて、トレス行為そのものが一律に違法とされるわけではありません。問題となるのは、「どの素材を」「どのような目的で」「どこまで利用したか」という点です。著作権法第30条では「私的使用のための複製」が認められており、個人的に自宅のスケッチブックで練習する目的や、自分自身で撮影した写真を下敷きにして作画する行為は完全に合法です。
しかし、インターネット上に作品を公開した瞬間、私的使用の範疇を逸脱します。著作権侵害の基準において司法が重視するのは、主に以下の2点です。
- 依拠性(いきょせい):既存の著作物を参考・利用して制作した事実が認められるか。
- 類似性(るいじせい):既存の著作物の創作的表現と、対象作品が実質的に同一、あるいは酷似しているか。
他者が撮影した写真や描いたイラストを無断でトレスし、X(旧Twitter)やpixivなどの不特定多数が閲覧できる場へ投稿した場合、著作権法上の「複製権(第21条)」や「公衆送信権(第23条)」、さらには原画を一部改変していれば「翻案権(第27条)」の侵害に問われます。また、実在の人物の写真をトレスした際には、著作権のみならず「肖像権」や著名人の「パブリシティ権」の侵害リスクも発生します。
近年におけるイラスト炎上理由の深層を現場取材から読み解くと、法的な違法性以上に「ファンの信頼を裏切る行為」に対する感情的反発が燃料となっています。特に企業案件やグッズ販売といった商用利用の注意点を軽視し、金銭的対価を得ていたことが発覚した事例では、クライアントを巻き込んだ損害賠償請求や契約解除へと発展するケースが後を絶ちません。制作期間の短縮や承認欲求への焦りから安易なトレスに手を染め、デジタルタトゥーとしてクリエイター生命を断たれる構造が定着しています。