今日のスタジアムの姿を語る上で避けて通れないのが、建設当初に巻き起こった巨大な迷走劇です。2012年の国際デザインコンペで最優秀賞に選ばれたのは、世界的建築家である故ザハ・ハディド氏の斬新な流線型デザインでした。しかし、二本の巨大なアーチ(キールアーチ)で屋根を支える特殊構造は技術的難度が高く、概算工事費が当初想定を大幅に超える2520億円へと膨張したことで国民的な大批判を浴びました。
世論の強い反発を受けた政府は2015年7月、異例の「白紙撤回」を決断。工期短縮とコスト圧縮を最優先課題として再公募が行われ、最終的に選定されたのが隈研吾建築都市設計事務所・大成建設・梓設計による共同事業体(JV)の提案でした。総工費は約1569億円に抑えられ、「杜のスタジアム」をコンセプトとする現スタジアムが誕生しました。
隈研吾氏のデザインで最大の特色となったのが、全国47都道府県から調達されたスギやカラマツといった国産木材の活用です。明治神宮外苑の豊かな緑と調和するよう、外周には幾重もの木製ルーバー(羽板)が巡らされています。法隆寺の五重塔から着想を得たという軒庇(のきびさし)の木材は、風をスタジアム内部へと呼び込む役割も担っており、巨大なコンクリートの塊になりがちな大型競技場に日本固有の陰影と温もりをもたらした建築として国内外から高い評価を得ています。