神社本庁の関係者や神職の証言によると、神道の祭祀で奏上される祝詞(のりと)には「弥栄に(いやさかに)栄えしめ給へ」という祈念文句が頻繁に登場します。日本古来の信仰において言葉には霊的な力が宿るとされる「言霊(ことだま)」の思想があり、慶事の言葉を口にすること自体が吉兆を引き寄せる儀礼とされてきました。これこそが「弥栄の言祝ぎ(ことほぎ)」の意味であり、声に出して発声することそのものが場を清め、神人和楽の空間を現出させる行為と位置づけられています。
現代において混同されがちなのが、慶祝の定番である「万歳(ばんざい)」との差異です。歴史的文脈と言語学的構造を対比すると、両者には明確な隔たりが存在します。
いやさかと万歳の違いにおける最大の核心は、方向性にあります。「万歳」は元来、臣下が皇帝に対して「一万年の長寿」を寿ぐ儀礼として中国から伝来し、日本では大日本帝国憲法発布時に歓呼の礼式として広まりました。対して「弥栄」は、特定の権力者に対する忠誠ではなく、その場にいる全員や社会全体の息災と繁栄をフラットに寿ぐ大和言葉ならではの包摂性を持っています。