菱田屋を語る上で絶対に避けて通れないのが、名物中の名物である菱田屋の生姜焼き定食です。一般的な定食屋の薄切り豚バラ肉とは異なり、菱田屋では厚みのある上質な豚肩ロース肉を惜しみなく使用しています。一口噛み締めると、驚くほど柔らかくジューシーな肉汁が溢れ出し、生姜の鮮烈なキレと甘辛く濃厚なタレが口内を満たします。
この味を完成させたのが、五代目である店主・菱田晃氏の経歴です。晃氏は実家を継ぐ前に、本格的な中国料理店で厳しい修行を積んだ異色のキャリアを持ちます。食堂の厨房でありながら、振るわれるのは中華鍋。極限まで高められた火力で肉の表面を一瞬でコーティングし、旨味を閉じ込める中華の炒め技法(爆炒)こそが、肉をパサつかせず極上の柔らかさに仕上げる決定的な要因です。
また、隠れた大人気メニューである菱田屋のチャーハンに関する口コミでも、「パラパラ感としっとり感のバランスが異次元」「町中華の名店を超える深いコクがある」と絶賛されています。この炒飯にも、店主の中華鍋使いの技術と、長年継ぎ足されてきた秘伝のラードや調味料の黄金比が生きています。晃氏が上梓した菱田屋のレシピ本の評判も極めて高く、「家庭の火力でどこまでこの味に近づけるか」に挑む料理愛好家が後を絶ちません。しかし、多くのファンが「結局、店舗で店主が振る中華鍋の一皿には敵わない」と再訪を誓うことになります。