滋賀県警察本部が直面してきた数々の試練の中でも、組織のあり方を根底から揺るがす契機となったのが、2003年に湖東記念病院で発生した患者死亡事故に端を発する湖東記念病院事件です。元看護助手の女性が殺人容疑で服役した後に申し立てた再審請求において、2020年3月に大津地方裁判所が言い渡した再審無罪判決は、警察の捜査手法に潜む密室性と自白強要の危険性を全国へ白日の下に晒しました。
当時の公判記録や報道各社の検証取材によると、客観的証拠に乏しい中で捜査官が心理的な誘導を行い、虚偽の自白調書を作成した過程が厳しく指弾されました。法廷で露呈した捜査記録の不開示問題や証拠管理の甘さは、県警上層部に計り知れない衝撃を与えました。これを受け、滋賀県警は取調べの録音・録画(可視化)対象を全事件へ段階的に拡大し、捜査支援部門による厳正な証拠チェック体制の構築を余儀なくされたのです。
さらに組織の屋台骨を揺るがしたのが、2018年4月に彦根警察署管内の河瀬駅前交番で発生した、当時19歳の男性巡査による上司射殺事件でした。貸与された拳銃で直属の教育係であった巡査部長を背後から銃撃したこの前代未聞の凶行は、警察組織の根幹である「拳銃管理」と「現場の指導・メンタルヘルス体制」の致命的な破綻を露呈させました。後の公判で明かされた指導方法を巡る確執や、孤立を深めていた若手警察官の精神状態は、全国の警察幹部に深い衝撃を与えています。
ネット上では当時、「警察官すら守れない組織が県民を守れるのか」「過剰な精神論と上下関係が生んだ悲劇」といった厳しい声が噴出しました。滋賀県警はこれを組織的危機と捉え、初任科生や現場配置直後の若手に対する「マンツーマン指導員制度」の形骸化を排除。定期的な外部カウンセリングの義務化や、パワーハラスメントを許さない監察指導の徹底など、痛烈な反省に立った組織風土改革を現在も推進しています。