日本中が憎悪を燃やした宿敵・長与千種との死闘。中でも語り継がれる伝説の敗者髪切りマッチは、単なる企画モノのプロレスを超えた惨劇だった。敗者の髪をその場で丸刈りにするという過酷なルールのもと、会場の大阪城ホールは異様な熱気と殺気に包まれていた。リング上でバリカンが動くたび、悲鳴と怒号が入り乱れ、観客席からは物投擲や怒声が飛び交った。
あの夜、ダンプ松本が背負っていたのは単なる悪役としての役目ではない。全日本女子プロレスという苛烈な組織の命運と、女子プロレスブームの全盛期を自らの泥をかぶる覚悟で牽引するという重責だった。髪を刈られ涙を流す相手を見つめる彼女の瞳の奥には、リングを支配する冷徹さと同時に、冷や汗の出るような緊張と覚悟が宿っていた。